授業の中でデボラ・タネン(Deborah Tannen)の研究について紹介する機会があり、それに関連して本人のスピーチ動画を視聴しました。以下の内容は
従来、男性語・女性語といった性別による言葉の特徴は、男女という属性そのものに結びつけて語られることが多くありました。
しかしタネンは、これらを単なる「会話のスタイルのひとつ」であり、「より女性的な話し方」と「より男性的な話し方」の選択として捉えるべきだと主張しています。 「より女性的な話し方」は相手との親密な人間関係(コミュニティ意識)を重視するのに対し、「より男性的な話し方」は自立や相手との競争(コンテスト)を好むという特徴があります。つまり、固定化された「男性語・女性語」という概念ではなく、会話の中に「より協力的なスタイル」と「より競争的なスタイル」が存在しているのです。お互いがそのスタイルの違いを認識し、話し手自身が状況に応じて使い分ける自由と責任を持っているというのがタネンの考え方です。
動画の中では、3〜4歳の子どもたちが良好な関係を保つためにどのような「会話の儀式(conversational rituals)」を経るのかが紹介されており、非常に印象的な対比が見られます。 男の子同士の場合は、ボールがどこまで届くかという話題で「空まで」と答えた子に対して別の男の子が「天国まで」、さらに別の子が「神様まで」と張り合ったり、ディズニーランドへ「4日間行った」と言えば「僕は5日間」と張り合ったりするように、競い合いながら会話を楽しむ傾向があります。 一方で女の子同士の場合、ある子が「自分のベビーシッターはコンタクトレンズをつけている」と言うと、相手の子が「私のお父さんとお母さんもつけているよ」と返し、最初の話者が「同じだね」と共感し合う様子が描かれています。
また、タネンが大学生40名(男女それぞれ10組の2人ペア)を対象に行った日常会話の調査では、あいづちや質問の頻度に顕著な男女差は見られませんでした。これは、恋人同士や新婚カップルを対象としたフィッシュマンの研究(女性の方があいづちや質問の頻度が高いという結果)とは異なる点です。 この結果は、話し手の性別によって常に一定の性差が生じるわけではないことを提示しています。
最近のYouTubeやショート動画などでも、女性が同性といるときと異性の前にいるときで話し方を切り替える様子を捉えたものがよく見られます。私たちが日常的に場面や状況に合わせて会話スタイルを自然と使い分けていることを、改めて実感させられます。
参考
メイナード・K・泉子(1993)「アメリカ英語」『日本の女性語 世界の女性語』(日本語学)明治書院、pp. 13-19.
Tannen, Deborah (1990). You Just Don’t Understand: Women and Men in Conversation. New York: William Morrow. (田丸美寿々 訳『わかりあえない理由』講談社、1992年)
Fishman, Pamela M. (1978). “Interaction: The Work Women Do.” Social Problems, 25(4), 397-406.
Deborah Tannen “Gender-specific language rituals”(YouTube動画)
https://youtu.be/tUxnBZxsfoU?si=CvMqSZ7ASirQM23n
Keywords
ジェンダー、スピーチスタイル