先日もご紹介した鈴木孝夫先生と平田オリザ先生の対談本『下山の時代を生きる』(2017)を読み返し、久しぶりに「タタミゼ」という言葉を目にしました。これは鈴木先生がさまざまな著書で触れられているもので、日本の「畳」を語源としてフランスで使われ始めた比較的新しい言葉です。
鈴木先生は、日本語を学んだアメリカ人やフランス人、ロシア人などが、日本語を知る前後で人間性そのものが変わっていく例を数多く挙げられています。有名人ではジョン・レノンがその一人で、日本語に触れることで思考が柔軟になり、平和主義的な考え方へと変化したとされています。
たとえば電車の中などで、お互いに素性の分からない相手と接する場面を考えてみます。英語であれば誰に対しても「you」で済みますが、日本語では目上の人に対して安易に「あなた」とは言いません。相手が自分より年上なのか、社会的な地位があるのかを探るため、「お孫さんはいますか?」「大学はどちらですか?」などと上手に問いかけながら、相手との距離感を見極める必要があります。そのため、日本語の会話は結論が最後になりがちで時間はかかりますが、そのプロセスを通じて相手と深く親しくなれるという側面があります。
こうした日本語の特徴はあくまで一例に過ぎませんが、本書の最後では「タタミゼ・ウイルス」という印象的な言葉が使われています。力がすべてを制する時代に対し、日本は力で相手をねじ伏せるのではなく、強大な相手の体内に知らず知らずのうちに入り込み、戦う意欲そのものを和らげてしまうような戦法をとるべきではないかという提案です。それによって、協力や共存、調和を重んじる新しいリーダーシップを示せるのではないかと言われています。
参考
鈴木孝夫・平田オリザ (2017). 『下山の時代を生きる』(平凡社新書 841) 平凡社.
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タタミゼ