井出祥子先生の「アメリカ英語の男女差」では、ロビン・レイコフの研究(Lakoff, 1975)に基づいて、英語に内在する男女差がまとめられています。

特に話し方にみられる男女差については、いくつかの特徴的な分類が紹介されています。たとえば、疑問の調子をとることで主張を弱める「尻上りのイントネーション」や、well、you know、kind of(kinda)、sort of(sorta)を用いて表現を曖昧にする「かきねことば(hedges)」が挙げられます。また、レイコフが「中身のない形容詞(empty adjectives)」と呼んだ cute、adorable、divine、darling、lovely、precious といった甘い形容詞もその一つです。これらの言葉は女性に多く使われ、男性が What a darling house that is! などと言うと周囲から違和感を持たれるような傾向があります。

さらに、語調を強める副詞の使用や、断定を避けて相手に気を遣う付加疑問(It’s cold, isn’t it? ⤴)、強調したい部分を強く発音する「イタリック体の話し方」も特徴的です。イタリック体の話し方の背景には、自分の言いたいポイントが理解されないのではないかという不安が存在すると指摘されています。

語彙や発音の面でも違いが見られます。女性は mauve(藤色)や lavender といった具体的な色彩語、dart などの洋裁用語を使用する傾向があるのに対し、男性は自動車の色に使われる amber(琥珀色)などを使用する傾向があります。また発音や文法に関しては、男性が男らしさを表すためにあえて権威のある正確な発音(たとえば -going の -ing を [in] ではなく [iŋ] とすること)を避ける一方、女性は権威のある正しい形を好む傾向があります。これは、道徳を守るという社会的な役割を意識しているためと考えられています。あわせて、please や thank you をはじめとする社交上のしきたりに沿った丁寧な言葉遣いも、円滑なコミュニケーションのための配慮として意識されています。

このように、従来の特徴としては、弱い立場や自信のなさを反映した言葉遣い、あるいは相手や場面に気を遣った話し方が中心となっていました。しかし今日では、女性の地位向上に伴い、女性も男性のように冗談を交えたり、婉曲的ではなく率直かつ自信のある話し方をしたりする傾向が少しずつ生まれてきているといいます。


参考
井出祥子(1988)「アメリカ英語の男女差」比嘉正範・Nicholas J. Te(編)『アメリカの言語文化 II:アメリカの社会と言語』放送大学教育振興会, pp. 41–52.
Lakoff, Robin. (1975). Language and Woman’s Place. New York: Harper & Row.(かつえ・あきば・レイノルズ,川瀬裕子訳『言語と性』有信堂, 1985年。)

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ジェンダー