前回の悪口の言語的特徴に続き、比嘉・ニコラス(1989)では、英語における悪口の特色として以下の3点が挙げられています。

1点目は「神聖さを汚す言葉(profanities)を使う」ことです。日本語では宗教に関連する悪口はあまり見られませんが、英語では“God damn you!”や“Go to hell!”のように、神や宗教的概念を用いた表現が存在します。

2点目は「糞尿に関する言葉(scatological terms)を使う」ことです。“Shit on you.”や“You eat shit!”、“You are full of shit.”、“Piss on you!”のように「排泄物」や「小便」にまつわる単語が使われます。日本語でも「くそ」という言葉は使われますが、「くそまじめ」のように強調表現としても用いられるため、英語ほど効果的な悪口になりにくいと言われています。海外ドラマ『Stranger Things』でも、登場人物のダスティンという少年が“shit”を頻繁に口にしていたのが印象的です。ただ、この場合は直接他人にぶつけるというより、自身の苛立ちや憤りを吐露するニュアンスで使われている印象を受けます。

3点目は「卑猥な言葉(obscenities)を使う」ことです。性器や性行為、性道徳に関する表現が用いられ、“Fuck you!”、“You are a mother fucker.”、“You are a bitch.”、“You are a son of a bitch.”といった過激な言葉が挙げられます。これを見ると、漫画『ピアノの森』の一幕が思い起こされます。のちに世界的なピアニストとなる主人公の少年が、母親の職業(水商売系)を理由に同級生から酷い言葉を浴びせられる場面がありました。

実際、比嘉・ニコラス(1989)でも、アメリカの文学作品や映画などを原語で鑑賞する際、こうした言葉の意味や背景を知っておくことが役立つと述べられています。しかし同時に、それらを日本語に翻訳しようとすると「こんちくしょう」や「ばかやろう」程度に収まってしまい、日本語におけるバリエーションの少なさを再認識させられることにもなります。


参考
比嘉正範・ニコラス J. ティール(1989)『アメリカの言語文化〈2〉アメリカの社会と言語』放送大学教育振興会.

Keywords
悪口