「bigger and better」とは言うのに、なぜ「better and bigger」とは言わないのでしょうか。
1975年の Cooper and Ross の研究は、まさにこうした「なぜ特定の表現の並び順が固定されているのか」という疑問から始まっています。著者らは、このように日常会話で語順が固直化した表現を「フリーズ(freezes)」と名付け、単なる記述的な文法問題にとどまらず、言語学的・心理学的な制約という視点から分析を行っています。
フリーズの前に来る要素には、共通する明確な意味論的特徴が存在します。例えば Positive(positive or negative, plus or minus, many or few)や Animate(people and things, men and machines)、Here / Now(here and there, now and then)などです。
膨大な例に共通する属性を集めると、それらは「典型的な話者(prototypical speaker = “Me”)」の特性を描写していることが分かります。著者らはこれを「Me First 原則(私第一の原則)」として定式化しました。話者(自分)に近い属性(ここにいる、今、成人、男性、肯定的、生きている、動作主など)が自然と前に配置されます。
一方で、God and man や heaven and hell(神聖性)、plant and animal(植物)のように Me First 原則で説明がつかない表現もあります。これらは Me First 原則が間違っているのではなく、Me First 原則よりも優先度が高い上位の意味論的制約として機能しているためです。
また、意味を持たない表現(spic and span, fiddle-faddle)や意味の論理と反する表現を説明するために、音韻論的制約も重要な役割を果たします。前の方が音節数が少なかったり(free and easy)、後ろに向かって第2フォルマント周波数が低くなったり(tick-tock, ping-pong)、後ろの母音が長くなったり(stress and strain)というルールが存在します。
例えば「trick or treat」は、意味の論理(お菓子をくれないと悪戯するぞ)では treat or trick となるはずですが、音韻制約が意味論的制約を凌駕した典型例です。原則として意味論的制約は音韻論的制約よりも優位に立ちますが、特定の音韻ルールが意味を追い越す場合もあります。
認知・情報処理の観点では、処理しやすい情報(自分に近い概念や音律的に短い要素)を前に置くことで、聞き手の初期処理を容易にするという機能的な動機付けが考えられます。
論文の締めくくりとして、著者らは次のように述べています。
“Finally, related to the above point, we attempt to relate our findings to a general framework of man’s view of himself in the world. The principle of Me First, which appears to account for a fairly wide range of freezing constraints, coupled with the assumption that place 1 conjuncts reflect the traits of the prototypical speaker, might give some indication about how we view this speaker.”
色々な例を説明可能なMe First 原則は、前の要素が典型的な話者の特徴を反映しているという仮定と組み合わさることで、人間が世界の中で自分自身をどのように捉えているか(この場合、自己中心的な世界観の投影)について何らかの示唆を与えるかもしれない、と述べられています。
言語構造と認知・世界観の密接な結びつきを認めることで、著者らは自らを「サピア=ウォーフの仮説(言語相対論)の支持者」であるとユーモアを交えて宣言し論を締めくくっています。
参考
Cooper, W. E., & Ross, J. R. (1975). World order. In R. E. Grossman, L. J. San, & T. J. Vance (Eds.), Papers from the Parasession on Functionalism (pp. 63–111). Chicago Linguistic Society
Keywords
Me First