「ジェンダー(gender)」という言葉は、江原・山田(2003)によれば、もともとは言語学において「名詞の性別を意味する用語」であったと言われています。
実際に『Oxford English Dictionary』で gender(名詞)の第1義を見ると、ラテン語やフランス語、ドイツ語、英語などの文法における「名詞や代名詞の性(男性名詞、女性名詞、中性名詞など)」を指す言葉として記載されています。また、この第1義の語源となったラテン語の genus(名詞)には、「いくつかの種類(種)を包含する概念や分類(カテゴリー)」といった意味がありました。つまり、もともとは現在の使われ方よりも、単なる「分類やカテゴリー」としての意味合いが強かったことが分かります。
この言葉が現在のような意味を持つようになった背景には、アメリカにおけるフェミニズム運動が深く関わっています。女性の参政権を求めた第1波運動に続き、職業や社会参加における実質的な男女平等を求めた第2波運動の時代です。
それ以前は、性別を表す言葉として生物学的性別を意味する「セックス(sex)」しかありませんでした。そのため、「男らしさ」や「女らしさ」といった社会的なイメージまでもが生物学的な性別として語られてしまい、例えば「おしとやか」とされる女性像に合致しない人が「生物学的に異常である」と判断されかねない問題が生じていました。
こうした背景について、江原・山田(2003)では次のように説明されています。「第二波フェミニズムは、性役割批判を展開するとともに、個人を拘束する『女らしさ』や『男らしさ』などの観念からの個人の解放を主張した。ここから、生物学的性別、つまり『身体構造としての性別』と、文化の獲得や社会化によって形成される性別を区別する言葉が求められることになったのだ」
さらに、1970年代以降は英語圏の心理学や社会学においても、生物学的性(sex)と、性別についての自己認知や社会意識として共有された性別特性(gender)とを区別して議論する研究が相次いで発表されるようになりました。こうして「ジェンダー」という言葉は、現代私たちが使うような意味合いへと変化していったのです。
参考
江原由美子・山田昌弘(2003)『改訂新版 ジェンダーの社会学』放送大学教区振興会.
Keywords
ジェンダー