本日から秋学期の授業が始まりました。昨日までは現実に引き戻されるような恐ろしい気持ちもありましたが、始まってみると科目が「英語学」ということもあり、現時点ではとてもワクワクした気持ちでおります。
最初の授業ではさわりとして、テキストにも登場したブラジ・カチュル(Braj Bihari Kachru)の「World Englishes」の概念と、3つの同心円モデルについて触れました。このモデルでは、英語を第一言語とするアメリカやイギリスなどを「内円圏(Inner Circle)」、英語を第二言語とするシンガポールやフィリピンなどを「外円圏(Outer Circle)」、そして英語を外国語として学習する日本や韓国などを「拡大円圏(Expanding Circle)」として分類しています。
なお、論文(Kachru, 1990)に掲載されていた図は一般的な見慣れた同心円モデルとは異なっていたため少し驚きましたが、中心から離れたいという意図があったのかもしれません(それ自体がこの論文の目的でもあるためです)。
ここから分かるように、共通語といわれる英語も決してひとつではありません。その意味で「World Englishes」と複数形(Englishes)で表現されるわけですが、論文の中では以下のように述べられていました。
“These three circles certainly bring to English linguistic diversity; let us not underestimate -as some scholars tend to do- the resultant cultural diversity. One is tempted to say, as does Tom McArthur (1987), that the three Circles of English have resulted in several English ’languages’. True, the purist pundits find this position unacceptable, but that actually is now the linguistic reality of the English language.(p.181)”
この引用からは、3つの同心円モデルが英語の言語的多様性を示すこと、そしてその背景にある文化的多様性にも目を向ける必要があることが伝わってきます。伝統的な純粋主義者からは受け入れられないポジションかもしれませんが、それこそが現代における英語のリアルな姿として見つめるべきなのだと感じます。
論文自体も、これまでの言語学や応用言語学が主に内円圏の英米英語を中心に展開されてきたことを受け、その枠組みを外側へ向けよう、特に外円圏の英語に焦点を当てようとする内容になっています。
詳細には触れませんが、この論文を読み進めていると、なんと鈴木孝夫先生のお名前が出てきて驚きました。どのような文脈かというと、鈴木先生の講演「国際英語とネイティブ英語―英語は本当に国際言語か?」を取り上げている場面です。鈴木先生は、日本の英語教育においてネイティブ英語ばかりが教えられ、イギリスやアメリカの文学や歴史、生活ばかりが扱われていることを批判し、英語はもはやネイティブスピーカーのためだけのものではないと主張されていました。そして、日本と欧米の関係が対等に変化したことで、日本の英語教育も受動的に学ぶ形から、自国の文化を表現する発信型へと転換すべきだと説いていたのです。
カチュルの主張と鈴木孝夫先生の考えの中に共通する視点を見つけることができ、とても嬉しく思いました。
参考
KACHRU, B.B. (1990), World Englishes and applied linguistics. World Englishes, 9: 3-20. https://doi.org/10.1111/j.1467-971X.1990.tb00683.x
Keywords
World Englishes