日本認知言語学会のワークショップ「名前・命名関連表現から見る言語使用の動態」を拝聴しました。その中で、泉大輔先生による「#名前をつけようプロジェクト-逸脱的な命名法『文の包摂』―」という発表があり、最近新聞で見かけて気になっていた「おうちにかえろう。病院」が取り上げられていてとても印象に残りました。

泉先生の発表論文集によると、「文の包摂」について以下のように説明されています。

現代日本語では、『振り込め詐欺』『かまってちゃん』『イタイイタイ病』『できちゃった婚』『バカヤロウ解散』など、分相当の要素が複合語・派生語の前項に生起する現象が観察される。このような現象は『文の包摂』と呼ばれ、特に名詞表現は『文包摂名詞』とされる(泉 2024)

文包摂名詞の名前としての使用は、商品名や作品名などの意図に基づく「計画的な命名」と、SNSや会話の場で一時的に形成される「臨時的な命名」に分類されます。その中で「おうちにかえろう。病院」は計画的な命名として登場しており、「おうちでよかった。訪看」「ごはんがたべたい。歯科」「これらからどうする。外来」などとともに、在宅医療を理念とする医療法人が運営する病院や診療部門の名称として用いられていることが紹介されていました。

朝日新聞の連載記事(2026年8月26日(現場へ!)「最期はおうちで」の病院:3 この名前に力、続ける実践)では、一般的な病院とは異なる魅力的な特徴も述べられています。スタッフは白衣を着ずに自分の好きな色のワイシャツを着用し、院長の回診やナースステーションもありません。1階にはカフェがあり、その横で患者さんがリハビリを行うなど、「おうちにかえろう」とがんばってもらいたいという温かいメッセージが込められているそうです。

記事の中では、訪問看護に興味を持つ看護師さんがネット検索中に「名前にクギ付け」になったエピソードや、医療事務を勉強されていた方が車を止めた際に建物を見て「マジか、この名!」と思ったという声も紹介されていました。

発表の議論に戻ると、文包摂名詞が名前として用いられる動機付けには、1つ目に「名前をつけたい」、2つ目に「具体的なイメージを伝えたい」、そして3つ目に「印象づけたい」という要素があり、文包摂名詞はこれらを満たす「いいとこどり」の表現形式だと述べられていました。新聞記事に登場する方々の反応を見ても、この狙いが非常にうまく機能しているなと感じます。

以下は、泉先生の考察からの引用です。

文包摂名詞は、語として対象に名前を与え、文相当の要素によって具体的な場面や話者の視点を表現し、さらに語形成上の逸脱性によって印象にも残りやすい。このような複数の要請を同時に満たし得る点で、文包摂名詞は『いいとこどり』の表現形式であると言える。


参考
泉大輔(2024)『現代日本語の逸脱的な造語法「文の包摂」の研究』ひつじ書房.
泉大輔(2026)『#名前をつけようプロジェクト-逸脱的な命名法『文の包摂』―』日本認知言語学会発表論文集, 17-20.
https://www.asahi.com/articles/DA3S16534065.html

Keywords
文包摂名詞, 名付け